Optical Review and KOGAKU, Webnews

【新刊紹介】光学技術の事典

新刊紹介

書 名:光学技術の事典
著者名:黒田和男,荒木啓介,大木裕史,武田光夫,森 伸芳,谷田貝豊彦(編)
発行年:2014年9月
出版社:朝倉書店
ISBN :978-4-254-21041-5
定 価:14,040円(税込)
出版社へのリンク:http://www.asakura.co.jp/books/isbn/978-4-254-21041-5/

紹介者: 早崎芳夫(宇都宮大学オプティクス教育研究センター)

 本稿を執筆している2015年2月現在は,卒業論文・修士論文をまとめ上げる時期である。私(早崎)の研究室の学生は,よく勉強している。言い方を変えると,勉強したくてしょうがないようである。ひところ,学生の不勉強を嘆く教員の発言をよく聞いたが,今の学生は,先生に文句を言われるとか,就職に有利になるとか,他の人から見て恥ずかしくならないようにとか,そういう気持ちで勉強しているのではないように見える。やはり,知識とスキルをきちんと自分のものにしておかないと,将来不幸になる可能性が高くなるということを,直感的に理解しているからであろうと思う。ここでいう不幸とは,個人の幸福・不幸のみを指しているわけではない。その人がこれから関わるすべての人々のそれを指している。そうした学生のメンタリティーの傾向は,以前から感じていたのだが,東日本大震災をきっかけに強く感じるようになった。

 このとき,大学教員(課長・係長と読み替えてもいい)がすべきことは,きわめてシンプルである。何を勉強すればよいのか,どのスキルを身につければよいのかを,適切な時期に適切な量で伝えるだけである。早すぎてはいけない。多すぎてはいけない。間違った時期に与えられた知識やスキルは,学生の要求と異なり,発展性をもたない。間違った量の知識やスキルは,学生の達成感を満たさない。これらは,学生に自信を与えない。自信のない知識やスキルは無意味である。

 われわれの課題は,その時期と量をどうするかである。この課題の難しい点は,ひとりひとりの学生に個別の解を提供しなければならないところにある。そのときわれわれがその個別の解を得るためには,学生自身からの状況の発信が重要である。しかしながら,ここで学生の側の課題は,何がわからないかがわからないことである。

 さて,この問題提起に対して,本書「光学技術の辞典」はきわめて有効である。大事なことが簡潔に書かれているので,この本を読んだ学生は,自分が何に興味をもち,何がわからないかを知る。数日あれば,全体に目を通すこともそれほど難しいことではないだろう。これは,編者らが電子書籍化をとらなかったひとつの理由ではないかと想像する。

 私がこの本を手に取ったときはじめに見たところは,各項目の著者である。日本には,光学という分野に,こんなにたくさんの著名な方がおられることを再認識させられた。また,この本は,各項目の専門家が誰であるかを知るための有用な情報源にもなる。

 1つの項目は3ないし4ページと適度な分量で記述され,数式を交えて書かれている項目も多く,知識獲得の導入として有効である。例を挙げると,統計光学,自動設計法,偏光計測,色彩光学,レーザー走査型顕微鏡の分解能の表(参考文献が引用してあればなおよかった)がある。個人的には,装置の制御法や評価法に関する数学的な記述がもっと欲しいと感じたが,本書のコンセプトとは異なるかもしれない。さらに特筆すべき点は,執筆者に企業の方が多いことにより,深掘りの記述がまとまった形で記述されているところである。例えば,赤外光学材料の透過スペクトルである。ネットで探索すれば,個々の材料の透過率を知ることはできるが,このような1つのグラフにはなっていない。ステッパー光学系や顕微鏡対物レンズ,カメラ用レンズの光学系の違いや変遷を比較できる図も魅力的である。

 本書は,光学の初学者だけでなく,光学のことをよく知るわれわれにも十分な読み応えがある。高価な本であるので,学生が買うのは難しい。一研究室に一冊,一課に一冊,図書館に一冊。私は,この紹介文を書き終えた後,学生の部屋にこの本を置いておこうと思う。