【新刊紹介】イラストレイテッド 光の実験

新刊紹介

書 名:イラストレイテッド 光の実験
著者名:大津元一(監修),田所利康(著)
発行年:2016年10月
出版社:朝倉書店
ISBN :978-4-254-13120-8
定 価:3,024円(税込)
出版社へのリンク:http://www.asakura.co.jp/books/isbn/978-4-254-13120-8/

紹介者: 武田光夫(宇都宮大学オプティクス教育研究センター)

本書は,以前にこの【新刊紹介】で紹介したことのある「イラストレイテッド 光の科学」の姉妹書である。そのときは「イラストレイテッド 光の科学」の美しいカラー写真とわかりやすい図柄の魅力を紹介した。

前報は,例えていえば,綺麗に盛り付けられた美味しい料理に出会った試食者の驚きを紹介したものである。このような美味しい料理がどのように作られたのか,それを知りたいと思った。しかし,「秘すれば花」なのか,それは「調理場の謎」として残された。だから,本書を手にしたとき「おお! ついに出たか」と思った。では,各章を概観して,その「謎」に迫ろう。

「第1章 『光』の撮影を楽しもう」では,最も大切な仕事道具であるディジタルカメラと撮影技術の基本について解説している。本書の核となる実験写真の多くは,微弱光での撮影によるものである。まずは,微弱光撮影におけるディジタルカメラの「強み」と「弱み」から説き起こされ,ディジタルカメラの強みを生かして弱みを補うマニュアル撮影の奥義が明かされる。「なるほど!」と思う。この導入部は,調理の達人の語る包丁談義にも似ていて面白く,読み始めから話に引き込まれていく。絞り,シャッター速度,ISO感度の関係を説明し,夜空を彩る花火を自動調整で撮影したものとマニュアル調整で撮影した2枚の写真を比較提示している。その歴然たる差に,思わずまた「なるほど!」と納得。セオリーの正しさを示す実験写真のもつ説得力を感じさせ,よい実験写真を撮る技術を学ぶ意義がよくわかる序章である。

「第2章 見える『光』を楽しもう」は,光線の軌跡を可視化する技術に関する章である。瞳から外れた方向に進む光線(光ビーム)は見えない。そのような直接目に入らない光線の軌跡を可視化するための手段として,散乱と蛍光のメカニズムを説明し,それらを用いたレーザービームの伝搬軌跡の可視化実験を紹介している。可視化にフォッグ(雲霧)や牛乳による散乱を用いるのはよく知られているが,薄い墨汁水溶液が優れた可視化散乱媒質であることや,市販文具の蛍光ラインマーカー用インクが光線軌跡を光らせるよい蛍光色素として使えることは,寡聞の評者にとっては興味深い新知識であった。

「第3章 色の変化を楽しもう」では,蛍光と偏光に由来する発色現象を取り扱っている。鉱物の美しい蛍光色を撮影するための紫外光源の選び方や,暗幕に付着して蛍光を発するホコリの除去法など,実際に実験した人しか知り得ないノウハウが明かされる。複屈折物体をクロスニコル状態の偏光板の間に置いた時にみられる美しい発色は,光弾性像としてよく目にするが,旋光分散によるショ糖水の発色は初めて見た。特に印象的なのは,ショ糖の旋光性によるレーザービームの偏光面の回転の映像化実験である。墨汁微粒子によるレイリー散乱は,光路を可視化するだけでなく,散乱の指向性が入射光の偏光電場に直交することにより特定の観察方向からみた光強度を変化させるので,偏光面の回転周期に対応した光軌跡の明暗を生じる。白色光に対する旋光分散を利用した虹色の美しい光路軌跡の写真は,芸術作品の域に達しているような気がする。

「3.3.5 偏光面の回転を画像化する」よりショ糖水中の旋光状態の可視化

「第4章 光の不思議を楽しもう」では,虹,逃げ水,蜃気楼などの自然界に現れる光学現象を実験的に再現して,そのメカニズムを屈折や反射の法則から説明している。また,濃度の異なるショ糖液中の屈折率勾配による光線の曲がりを可視化する実験は,フェルマーの原理を実感させてくれる。また,容器から吐出する水が描く放物線の水路中にレーザー光を閉じ込め,可視化することにより,全反射を利用した光ファイバーの原理を説明している。「光るおしっこをする小便小僧」を連想させる面白い写真だ。

「第5章 スペクトルを楽しもう」は分光器の原理を学ぶ実験である。光ディスク(CD-R)の周期構造を回折格子として利用した手作り格子分光器で,太陽光のフラウンホーファー線を観察している。また,プラズマボール中で怪しげに光るプラズマ発光のスペクトルを計測して,その構造から内部のガスの種類を推測する面白い実験が紹介されている。屈折率分散を利用したプリズム分光器の実験では,スペクトル分離された光線経路を可視化して,実際のスペクトル分離角は教科書に描かれている三角プリズムによる白色光のスペクトルの分離角の図よりはるかに小さいことを指摘している。気になって,ブリタニカのプリズム分光の説明図を見てみたら,確かにその通りの誇張図が描かれていた。なるほど!さすが,実験者の眼は確かだ!

「5.4.2 プラズマ発光を分光する」より、CD-R手作り分光器で得られる線スペクトル像

「第6章 色彩を楽しもう」は,微細構造の作りだす構造色の発生メカニズムと観察実験の章である。薄膜やニュートンリングの干渉色,真珠層の輝き,CD-Rの色づきなど,魅力的な写真が満載されている。中でも,円偏光選択反射をするコガネムシを,左まわりと右まわりの2種類の円偏光フィルターを通して撮った比較写真は,その違いが一目瞭然,説得力満点だ。

「6.2.4 真珠層の輝き」より、干渉で生まれる色彩(構造色)
「6.4.1 円偏光で変わるコガネムシの色」より、円偏光の選択反射

 「第7章 ミクロを楽しもう」は,顕微鏡の結像系と照明系の原理と,顕微鏡下の色彩あふれるミクロの世界を紹介する章である。千代紙の拡大像を観察して照明条件による見え方の違いを体験し,偏光顕微鏡によるバニリンやグルタミン酸ナトリウムなどの結晶の美しい色変化を楽しむことができる。なかでも,シャボン玉膜の顕微鏡写真は面白い。シャボン膜を構成する2分子膜が1層ずつ積層している分子層の段差の不連続性が,干渉効果ではっきり見えるのは驚きだ。

「第8章 物作りを楽しもう」は,本書の実験に用いられた手作り光学機器の作り方を詳細に解説した章である。光線収差の視覚理解に使用したLEDライン光源の製作では,白色LEDの先端のプラスチックレンズ形状をやすりで変えて,理想的な疑似点光源を作る方法を紹介している。この疑似点光源を用いた恐竜スケルトン模型の影絵写真は,迫力満点だ。また,フラウンホーファー線の観察に用いたCD-R分光器の作製法を,具体的かつ詳細に解説している。最後に,ピンホールカメラの機能に自由度を持たせた二重スリットカメラの作製法を述べ,「アナログで味わう針孔写真の世界」を紹介している。この作品を見ると,ディジタルカメラの「弱み」を補完するアナログカメラの「強み」を実感できる。

以上に概観したように,本書は美しい図と写真を用いた「イラストレイテッド」という表現手法による実践的「光の実験」の教科書である。実験テクニックの詳細な記述と貴重なノウハウが満載されている。「な~るほど,そうやるのか! 私でもこんな素敵な写真が撮れるかも?」と,自分でも実験してみたくなってくる。だが,本書は単なる”How to”本ではない。実験方法の背景となる散乱や回折などの物理現象の解説にも,十分力を入れているからだ。読者に明確な物理的イメージを与えてくれる優れた実験入門書なのだ。

読み終えて「調理場の謎」は解けた。「秘せずば,花なるべからず」ではなく,「花は花なり」というべきか,秘密を知ってさらに新たな感銘をおぼえた。前姉妹書と同じく,本書もまた楽しく読んで興味の尽きない,個性豊かで秀逸な「光の絵本」である。読後の印象もこれまた「やはり,すごい!」だ。姉妹書とともに一読(一見かな?)を勧めたい。

口絵より、アスコルビン酸(ビタミンC)結晶の偏光干渉画像。

図は著者と出版社の許可を得て転載