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大頭先生の御冥福を祈る

大頭仁先生が2019年9月30日に87歳で亡くなられました。
大頭先生は、1932年東京都に生まれ、早稲田大学において理工学部を卒業、修士課程を修了した後、東京大学生産技術研究所久保田広研究室勤務を経て、文部省国費留学生として留学したウィーン工科大学から1959年に「多光束干渉法の情報光学」の研究によりDr. Techn.(工学博士)の学位を授与されました。その後、西ドイツ連邦立理工学研究所およびスウェーデン王立理工学研究所にてポスドク研究員として勤務し、1960年に早稲田大学に専任講師として赴任した後、助教授を経て教授に昇任されました。早稲田大学在職中には、理工学部教務主任、大学院理工学研究科委員長、理事、評議員を歴任され、2002年に定年退職して名誉教授となられてからも、稲志賛助員、名誉評議員の要職を務められ、2011年秋には早稲田大学在職中の功績に基づいて瑞宝中綬章を受章されました。

大頭先生は長年にわたって光科学、応用光学および応用物理学の教育と研究に従事し、実社会への光学技術の開発・普及・啓蒙活動を通して、生命科学の発展および人類の福祉と健康にも貢献してこられました。とくにレーザーとそれを駆使した先端光学技術を中心に、多くの研究開発とその社会への普及に尽力されました。
研究テーマは多岐にわたり、早くから光通信の将来性に着目し、光ファイバーやガラスレーザー、ファイバーレーザー、さらには光導波路デバイスや光メモリーなど、光・量子エレクトロニクス分野の先駆的研究に取り組みながら、視覚系の空間周波数特性をはじめ、ホログラフィーによる眼球内部の三次元計測、レーザースペックルの動的挙動とその屈折異常検査への応用、レーザー走査型眼底カメラの開発のほか、皮膚刺激による重度視覚障害者への文字情報伝達、二眼式ディスプレイによる立体知覚の解明など、視覚光学や感覚代行の研究にも大きな貢献をされました。

日本光学会では幹事長(1984〜1985年度)、「光学」編集委員長(1972〜1973年度)を務められました。また、応用物理学および物理学の分野においては、1976年から1980年まで応用物理学会の理事および「応用物理」編集委員長を務められ、さらに日本学術振興会「光と電波の境界領域」委員、日本学術会議・物理学研究連絡委員、同応用物理学研究連絡委員、応用物理学会評議員などを歴任されました。
眼科光学の分野では、1985年から長年にわたり日本眼光学学会の理事を務め、同会長(1987〜1989年度)、同理事長(1991〜1995年度)、日本眼鏡学ソサエティー理事長、電気学会・視覚情報研究専門委員、日本レーザー医学会・評議員などを歴任されました。また、ワシントン大学医学部眼科客員教授(フルブライト交換教授、1960〜1961年)、ミュンスター大学医学部生命研究所客員教授(1996〜1997年)として研究・教育に従事し、1985年からは米国オプトメトリー学会フェローとなられ、1991年に「生命科学における光学」(OWLS)国際学会を設立し、その後2002年まで理事、1998年まで会長を務め、1994年には組織委員長としてOWLS Ⅲ(Optics within Life Sciences)を早稲田大学国際会議場において開催するなど国際的にも顕著な活躍をされました。
このほか1979年から長く国際標準化機構(ISO)「TC-172, SC-7」日本代表を務め、厚生省・中央薬事審議会「眼科用具」委員、通産省・福祉機器技術研究開発委員、文部省・学術審議会「科学研究費」専門委員、厚生省・中央薬事審議会「医用レーザー」委員、および労働省・身体障害者雇用問題委員として、長年にわたり国政にも多大な貢献をされました。
早稲田大学においては、多くの学部・大学院学生の教育に携わりながら、自身の研究室で指導した二百名以上の卒業研究生・大学院学生を社会に送り出されました。日頃から研究室の学生には、社会への貢献を念頭におき、実験装置をバラックのままにせず、実用的で使いやすい形に仕上げるよう指導され、その成果は、高田器械(株)と共同開発した「視覚系の空間周波数特性測定器」「レーザースペックル眼屈折測定装置」「角膜内皮細胞測定装置」、キヤノンと共同開発した「レーザー走査眼底計測装置」など実用機の開発にも結実し、その一部は応用物理学会50周年記念「科学の時代の科学博」にも出展されました。

大頭先生は、30代で米国のオプトメトリスト教育に触発されて以来、眼の健康を守る側面から社会貢献を続けられ、名誉教授となられてからも一貫して日本の眼鏡技術者の技能と地位の向上をめざして尽力されました。
大頭先生の御逝去を悼み、長年にわたる御貢献を称え御指導に感謝するとともに、謹んで御冥福をお祈り申し上げます。

小松進一(早稲田大学先進理工学部応用物理学科・教授)