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【追悼】加藤純一さんを偲んで
河田 聡
理化学研究所名誉研究員
理研がまだ「科学者の自由な楽園」だった頃,理研の研究員の加藤純一さんと知り合いました。その 10 数年のちに,私は理研で研究室を持つことになり,加藤さんが参加してくれました。加藤さんと同時に参加してくれた岡本隆之さん,城田幸一郎さん,翌年に着任する田中拓男君,秘書の佐藤さん,学生は学習院の安達君と矢部君の二人だけの,小さいながらも楽しい研究室でした。
加藤さんは,私が新しくお願いした研究テーマの開拓はもちろんのこと,テニス,水泳,バーベキューなどなど,理研の設備施設をしっかり利用して,まさに「科学者の自由な楽園」を謳歌されていました。私もそれにすべて参加するつもりでしたが,結果的に阪大との兼務を続けてしまったので,東阪を毎週忙しく往来して,加藤さんが羨ましい限りでした。その元気印の加藤さんが,私よりも先に他界されるとは思いもよらぬことです。
それから 10 年の間,毎週金曜の朝に開く FMM(Friday Morning Meeting)は,刺激いっぱいの勉強会でした。1 年に 1 回,理研ナノフォトニクス・シンポジウムを開催し,国内外からの大勢の研究仲間を呼び,交友を暖めました。霜田光一先生も毎回参加してくださいました。それらの企画や運営の多くは,加藤さんが担当してくれました。大変感謝しています。またそこでの経験は,日本光学会での事業の企画や運営にも役だったことだろうと思います。春と夏には毎年,阪大と理研の河田研の合同合宿(スプリング・スクールとサマー・スクール)に淡路島や白浜,琵琶湖などへ行き,秋には理研の河田研の合宿(オータム・スクール)に関東のあちこちの温泉へ行きました。毎回,夜中まで酒を飲み交わしてゼミ発表を楽しみました。最初の頃は,阪大に帰ってきたばかりの中村收君(2005 年に 42 歳で他界)も参加していました。
人はみな,生まれて死にます。長く生きても短く生きても,必ず終わりが来ます。ゼロから生まれてゼロに帰す。しかし,そのエネルギーはともに暮らした人たちの未来に保存されます。光学,ナノフォトニクス,理研を愛した加藤さんの人生とそこから生まれたエネルギーは,加藤さんが亡くなられても,同じ時間を過ごしたみんなの記憶にいつまでも残ることと思います。
加藤さん,たくさんの思い出をありがとう。安らかにお休みください。こころからご冥福をお祈りします。
加藤さんが関わった研究:
- “Multiple-spot parallel processing for laser micronanofabrication,” Appl. Phys. Lett., 86 (2005) 044102.
二光子光重合による三次元ナノ構造作成技術を大量生産させる方法と実験。 - “Subwavelength optical imaging through a metallic nanorod array,” Phys. Rev. Lett., 95 (2005) 267407.
スーパーレンズと逆の原理の表面プラズモンによる金属の剣山のナノレンズ。 - “Surface-plasmon holography with white-light illumination,” Science, 332 (2011) 218.
Raman-Nath 回折なのに,カラー再生ホログラムの提案と実験結果。
(2015 年 11 月 10 日受理)