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【新刊紹介】 ビジュアル解説 光学入門

新刊紹介

書籍名:ビジュアル解説 光学入門
著者名:田所利康
発行年:2024年
出版社:朝倉書店
ISBN :978-4-254-13150-5 C3042
出版社へのリンク:https://www.asakura.co.jp/detail.php?book_code=13150

紹介者:安井 武史(徳島大学)

本書を読んで最初に感じた感想は、光学をこれから学ぶ学生にとって、まさに「はじめの一歩」の書籍ということである。我々が学生時代にお世話になった光学の教科書は、必要最低限の図と、沢山の数式が紙面上に踊っているものが多く、現象の直感的なイメージがなかなか湧かず苦労したことを覚えている。一方、本書では、様々な光学現象のイメージが湧きやすいように、波動光学に基づいたビジュアル的表現をふんだんに取り入れるなど、理解を助ける工夫が至るところでなされている。
著者は、これまでにも絵と写真で謎解きをする「光学の絵本」として「イラストレイテッド 光の科学(朝倉出版)」を執筆されているが、その良いところ(光の振る舞いの物理イメージをカラー図で直感的に捉えやすく描写している点)を残しながら、必要最小限に留めた数式と紐付けすることにより、物理イメージと数式の両面から理解が進むように工夫をされている。また、我々が身の回りで見かける様々な光学現象との関連性にも触れており、「目に見える」という光の特徴を上手く使って興味を引きつけている。

第1章「波としての光の性質」では、高校物理や数学の延長上の知識で光の性質を理解することから始め、光の伝搬で必須の数式群(マクスウェル方程式)の物理的イメージもイラストで噛み砕いて解説している(図1)。
第2章「媒質中の光の伝搬」では、バネ振動モデルを用いて分極を分かりやすく解説(図2)した後、散乱2次波や位相子の概念を導入し、散乱、透過光、屈折率といった概念の理解に繋げている。
第3章「媒質界面における光の振る舞い」では、反射や屈折といった幾何光学で馴染みの光学現象を、散乱2次波や位相子を用いた波動光学的描写と数式で説明し、両者を上手く整合させて理解が進むように工夫されている。
第4章「干渉」では、波の重ね合わせと定在波をリンクさせて反射における位相の振る舞いが視覚的に説明され、干渉現象や干渉実験に展開されている。
第5章「回折」では、基本的な光学現象の中では比較的難解で数式も複雑な回折現象を、ホイヘンスの原理の2次波を用いた視覚的な説明(図3)で理解を深め、最終的に上手く数式とリンクさせている。


図1 電磁波における ∇ × E = −∂B/∂t の働き

図2 (a) 光の交流電場に応答する電子分極の物理モデルと (b) 外部から加振される減衰振動子の振幅

図3 レンズを使ったフラウンホーファー回折の光学配置と無収差レンズ結像系

評者は、著者の田所氏とは、毎年、自身が担当している大学講義(専門科目)の特別授業をお願いしているご縁がある。光を専門としない機械系学部1年生を対象とし、本書に記載の内容を中心とした授業であるが、目で見える身の回りの光学現象に紐付いた講義内容は、機械系学生でも興味を引きつけるようで好評である。また、講義後の懇親会でお酒を酌み交わしながらお話しを伺う度に、光学を広め、その理解を深める必要性に対して熱い情熱を持たれていることを感じていた(身の回りの光学現象を引き立たせる美しい写真を撮ることにも励まれている)が、今回、このように書籍という形で世に出ることとなったのは喜ばしい限りである。
大学教員の立場としては、考えることより見ることになれた昨今の学生に対する講義の教科書として是非利用したい好著である。また、学び直し世代の方々にとっても、新しい気付きがある書籍として、是非、お薦めしたい。