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【新刊紹介】光学
新刊紹介
書 名:光学
著者名:谷田貝 豊彦
発行年:2017年5月25日
頁 数:372頁
出版社:朝倉書店
ISBN :ISBN978-4-254-13121-5 C3042
定 価:6,912円(税込)
出版社へのリンク:http://www.asakura.co.jp/books/isbn/978-4-254-13121-5/
紹介者: 本宮佳典(東芝リサーチ・コンサルティング株式会社)
光学は長い歴史を持つが,今,大きな変貌の時期にある。光源やセンサーは多様に進化し,種々の分野(画像,情報,通信,機械,材料,医学,生物,環境,…)との関係も密接になり,新たな技術領域も拡大している。こうした中,光学に興味を持ち,学ぼうという学生や若手技術者も増え,その動機や指向,背景知識も多様化している。
本書は「まえがき」にもあるように,「理工系の大学および大学院で光学を幅広く学ぼうとしている学生,やや高度の光学の知識を必要としている技術者や研究者」を想定読者とした教科書である。やや高度な内容も含まれるが,初めて光学を学ぶ読者がじっくり向き合って,理解を深めながら読めるよう配慮された書である。
著者の谷田貝豊彦筑波大学名誉教授は,長く大学で応用光学の先導的研究と教育に携わってこられた。退官後は宇都宮大学オプティクス教育研究センターの初代センター長として10年務められ,現在も同センター教授としてご活躍中である。門下からは多くの研究者・技術者が輩出している。旧日本光学会幹事長,SPIE会長など国内外の学会で要職を歴任し,また,行政や産業界との連携にも尽力してこられた。本書は,著者がその豊富な経験を踏まえて応用技術まで視野に入れた光学教科書として執筆された点で意義深い。基本的には標準的な光学の教科書として十分な内容を備えつつ,応用技術の理解や実践の場での活用に向けた配慮も感じられる。幅広い読者にとって興味深く有益な内容と思われる。以下では本書の特徴的な部分を概観する。
まず,本書のカバーする領域である。目次(本記事冒頭の「出版社へのリンク」参照)を見て頂ければ分かるが,幅広い領域にわたっていることが特徴と言える。LED,レーザー,光検出器,散乱,結晶,液晶,光ファイバー,ガウスビーム,エタンデュ,測色など,話題は多岐にわたる。これらは,本書が応用光学に主眼を置いていることの表れであろう。光学を学んだ者として社会の現状を理解し今後を考えようとするとき,「知らない」では済まされないキーワードである。光学系の性能やコストだけでなく,安全性や環境親和性も重視される時代となり,白色LED,撮像素子,測色など,光学に関係する技術が身の回りにも豊富になっている。専門外であっても,技術を考える上で基本を弁えておきたい領域は広がっており,その期待に応えるべく幅広い領域が取り上げられている。とはいえ,ハンドブック等と見比べるまでもなく,教科書としての趣旨に沿うよう分野や話題が選択されていることも窺われる。
次に,学習者への配慮に手厚いことも特徴に挙げられると思われる。限られた紙数で幅広い領域をカバーしながらも,基本的な物理や数理は極力丁寧に説明されている。また,章末の問題と巻末の解答も充実しており,本文を補足する配慮が感じられる。初学者にはぜひ腰を据えて向き合って欲しい。とはいえ,後の方の章では,通読の過程で向上する理解力も織り込まれてか,数式も説明も簡潔になる。表1に示すように,後半の数章は頁数も少なく,深い理解を目指そうとしたときに必ずしも十分に親切とは言えないかもしれない。むしろ,幅広い話題に接する機会としての役割が重視される。前半の基本的事項の説明と同じ著者から簡単にでも概要の手ほどきを受けると,それぞれの専門的な文献に進みやすくなるという効果は大きいと思う。
章ごとの内容と特徴を見ていく。第1章の幾何光学は,直進,反射,屈折の法則から始まる。ここで,反射の法則の説明に続いて早々に六分儀が紹介されている。こうしたところに,応用技術への指向が感じられる。反射の法則を理解したからといって,六分儀の仕組みを発想できるとは限らない。また,機器の仕組みに興味を持つことは,技術者に限らず有益な面があろう。光学理論の洗練された体系を理解するだけでなく,技術的な工夫に関心を持ち,日常の場での活用に繋がるセンスを涵養するためには,こうした種々の具体的な工夫の事例に接することが有効であろう。屈折計なども紹介されている。
応用との関わりが一貫して意識されていることは本書の特徴と言える。レンズ,絞り,収差などが一通り説明された後,拡大鏡,接眼レンズ,顕微鏡,望遠鏡などの仕組みについても,各部の役割や構造,動作原理などが分かりやすく説明されている。先人の知恵や工夫が感じられ,現象の意味や特徴を改めて意識できて興味深い。
波動としての光はマクスウェル方程式に基礎を置き,第2章から第5章の各章で基本事項が順次論じられる。このあたりは多くの頁数が充てられ,内容も豊富で説明も丁寧で充実している。第4章では種々の干渉スキームに先んじて白色干渉が示され,コヒーレンスについて簡潔に説明されてすぐにファンシッター・ツェルニケの定理などの説明がある。「基礎理論をよく理解してから応用を学ぶ」という順序を想定する人には,やや急ぎ過ぎに感じられるかもしれない。しかし,主題が次第に高度になり,読者にとって必ずしも身近ではなくなってくると,関係する現象や応用の概略を知ってから,その基礎づけを学びたくなる場合も増えるだろう。そうした学習者の心理に配慮されており,内容が高度な部分も比較的読みやすい。第5章の回折と,後続の第6章は関りも深く,近年性能向上の著しい各種光源やセンサーの応用を考える上で,活用される機会も多いだろう。
第7章以降は頁数こそ減っているが,基本的な公式や関係式はよく網羅され,概要が簡潔にまとめられている。そのため,数式に不慣れな読者には他の文献を参照する必要が増すかもしれない。しかし,前半とは違って,通読して完全に理解することを目指す必要は,必ずしもないと思う。座右に備えて折に触れて目を向けるだけでも,知らず幅広い分野に親しみを覚え,興味の増すときが来るものである。そうして機が熟すのを待って続きを読むのも本書の趣旨に適う利用法ではなかろうか。
総じて本書では,バランスへの配慮が行き届いていると感じられた。幅広い視野,数学的基礎の丁寧な説明,歴史的背景の説明,近年の技術動向の反映,理解度の様々な段階にある学習者への配慮など,どれも本書の特徴には違いないが,限りある頁数の中で全てを徹底できるものではない。どこで何を重視して書くか,多くの判断が必要に違いない。また,応用技術が重視されている点を特徴として紹介したが,初学者も想定された「光学」の教科書として,何にどこまで触れるのが適切かという具体的な判断も容易ではない。博識で経験豊かな著者ならではの見識が随所で発揮されていることが窺われる。光学に関心のある多くの学生や若手技術者の方々に教科書として薦めると共に,若手の指導に関わる方々にも参考になる部分は多いと思われ,お薦めしたい。