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【新刊紹介】イラストレイテッド 光の科学
新刊紹介
書 名:イラストレイテッド 光の科学
著者名:大津元一(監修),田所利康・石川 謙(著)
発行年:2014年10月
出版社:朝倉書店
ISBN :978-4-254-13113-0
定 価:3,240円(税込)
出版社へのリンク:http://www.asakura.co.jp/books/isbn/978-4-254-13113-0/
紹介者: 武田光夫(宇都宮大学オプティクス教育研究センター)
個性的な「光の絵本」に出会った。初めて手にしてぱらぱらとページをめくっただけで,すぐに「おっ,すごい!」と強いインパクトを感じた。魅力的な写真や図柄が満載で,著者の意気込みが直接伝わってくるのだ。光の科学をどう学ぶか?「読書百遍義自ずから見(あらわ)る」というように,難解な数式にめげずに取り組むのはもちろん大切である。が,「百読(百聞)は一見に如かず」ともいう。まずは,現象そのものをよく観察すること。そして,物理的イメージを通じて現象の本質を直感的理解することが不可欠だ。評者も共感するこの考えを,美しいカラー写真やわかりやすい図柄をふんだんに使った「イラストレイテッド」という表現法により,「光の絵本」として見事に実現してみせたのが本書である。
全体は4章でコンパクトに構成されていて,その内容は明確な意図をもってかなり厳選されている。以下に各章を概観する。「第1章 波としての光の性質」では,身近な光の電磁波としての基礎的な性質を扱っている。ここでは,矢印の長さが振幅を表し回転が位相を表す「仮想ストップウォッチの矢印」という絵道具を導入して,数式を用いずに光波の振幅と位相をイメージ的に表現する工夫がなされている。この「仮想ストップウォッチの矢印」は,数学的には複素平面上のフェーザーに対応しており,本書全体を通じて複素波動場の重ね合わせを図的に説明するための基本的な道具となる。「第2章 ガラスの中では光は何をしているのか」は屈折や散乱現象に関する章である。多くの光学入門書では,屈折を媒質中の光速の違いから生じるマクロな現象として片付けてしまい,屈折率や分散の起源については触れない。本章の特色は,このような「ブラックボックス化」を排した点にある。誘電体中の光と電子の相互作用によって生じるミクロな双極子に焦点をあわせ,その振る舞いから,マクロな現象の起源を図と洗練された語り口で説明している。著者の世界観に触れることのできる章である。「第3章 光の振る舞いを調べる」の主題は,光波の伝搬・反射・干渉・回折の諸現象を波動場の重ね合わせの原理で統一的に説明することである。ここでも数学のフェーザーを表す「仮想ストップウォッチの矢印」のベクトル的重ね合わせが主要な絵道具となる。数学の「停留位相法」の概念を,「仮想ストップウォッチの矢印」の向きが局所的にそろって観測点での波動場の重ね合わせへの寄与が極大となる位置,という表現に置き換えて,反射や屈折の法則を図的にうまく説明している。「第4章 なぜヒマワリは黄色く見えるのか」は色の起源とスペクトル関係を述べた章である。加色混合,減色混合,演色性のほかに,虹の起源や干渉色や構造色についても美しい写真と図柄で説明している。
この「光の絵本」は各章の写真や図柄を見ているだけでも楽しめるが,特筆すべきは,これらの魅力的な写真や図柄の多くが著者自らの実験により制作されていることである。本文中にCOLUMNという小ページを設けて,その実験の具体的な方法やノウハウについて解説している。これを読むと著者の創意工夫や苦労がわかり,写真の鑑賞と理解に深みが増してくる。読み終えて,この本ではレイリー分解能の定義式以外には数式が全くでてこなかったことに気づく。本書は「数式なしで光現象の物理の本質をどこまで語れるか?」という興味深い実験の成功例とみることができる。しかし,著者が数式を排除したのは,数式が不要だからではない。最初はイメージによる直感的な理解から入るのが近道であり,また物理的イメージを描けることが数式の意味の理解にも役立つからである。本書は,数式を用いる専門書を読む前の準備体操として,身近な光の現象に親しみ,物理的イメージを豊かにして直感を鍛えるための,格好の入門書となるだろう。同じ著者による数式を用いた入門書「光学入門―光の性質を知ろう―」(大津元一・田所利康[著],朝倉書店,ISBN 978-4-254-21501-4)がある。図柄や扱う対象が本書と共通しているので,両者を読み比べると数式のもつ意味がよくわかり,光の物理現象を精密かつ定量的に記述するための言語として,数学がいかに便利で強力な道具であるかがわかるだろう。逆説的ではあるが,数式を徹底的に排除することにより逆に数式の真価が見えてくるのだ。ともあれ,本書は見て楽しく読んで興味の尽きない個性豊かな秀逸の「光の絵本」である。読後の印象も「やはり,すごい!」である。一読(一見かな?)を勧めたい。