光学・OR・ウェブニュース

【新刊紹介】生体ひかりイメージング 基礎と応用

新刊紹介

書籍名:生体ひかりイメージング 基礎と応用
監修者:星 詳子(浜松医科大学)、山田 幸生(電気通信大学)
発行所:2021年12月
出版社:(株)エヌ・ティー・エス
〒102-0091 東京都千代田区北の丸公園2-1 科学技術館2階
ISBN :978-4-86043-729-9 C3045
出版社へのリンク:http://www.nts-book.co.jp/item/detail/summary/bio/20211200_254.html

紹介者:武田光夫(宇都宮大学オプティクス教育研究センター)

書名の「生体」「ひかり」「イメージング」の3つのキーワードが示すように、本書は「医学・生物学」「光科学・光工学」「数理科学・情報工学」の3分野を有機的に統合し、新分野としての学問的体系化を書物の形で成し遂げたものである。急速な進歩を遂げつつある当該分野の研究の俯瞰と人材育成のための教材として、時代の要請に応えた画期的な著作である。当然ながら、このような分野横断的な大著(550頁)の執筆は単独の著者でなしえるものではない。本書は医学者の星詳子氏と工学者の山田幸生氏を監修者とし、当該分野の最前線で活躍する気鋭の研究者の分担執筆によるものである。異分野横断的な分担執筆にもかかわらず、用語や記述が全体的によく統一されている。星氏と山田氏を共同指揮者(兼演奏者)とし、気鋭の演奏者をメンバーとするオーケストラによる一糸乱れぬ交響曲演奏を聴いたような読後感をもった。全体的な調和の中に個々の演奏者の個性や魅力が感じられるのも面白い。その背景には本書の生い立ちがある。本書は監修者と執筆者を主要なメンバーとする日本学術振興会産学協力研究委員会「生体ひかりイメージング技術と応用(第185委員会)」の11年にわたる協力活動の成果として生まれたものである。現在その活動は日本光学会の専門委員会「生体ひかりイメージング産学連携専門委員会(星詳子代表)」に引き継がれている。

内容は以下のように前半の基礎編と後半のイメージング編に分かれ、全9章で構成されている(各節の内容をキーワードとして記した)。

【基礎編】

第1章 光と生体の相互作用
光伝播に関わる基本的な物理量、光吸収と生体機能情報、光散乱、蛍光とりん光、偏光、計測法の概要

第2章 生体内光伝播現象の数理
光輸送方程式、光輸送方程式のPN近似、光拡散方程式、光拡散方程式の解析解、光輸送方程式・光拡散方程式ハイブリッドモデル、蛍光体がある場合の光伝播、モンテカルロ法、光伝播経路・感度・平均光路長

第3章 計測法の分類と計測装置
連続光計測、時間領域計測、周波数領域計測、拡散相関分光法

第4章 光学特性値計測法と光学特性値データ
積分球法による光学特性値計測、空間分解法による光学特性値計測、時間領域計測による光学特性値推定、周波数領域計測による光学特性値推定、多層構造組織における光学特性値計測、各種組織の光学特性値データ

【イメージング編】

第5章 拡散光スペクトロスコピ(DOS)
組織酸素モニタ、機能的近赤外スペクトロスコピ (fNIRS)、DOSの課題

第6章 拡散光トモグラフィ(DOT)
DOT概論、線形化DOT-連続光DOT、非線形逐次近似DOT、DOTの応用例

第7章 蛍光イメージング
蛍光イメージングの観察手法、蛍光プローブとライブ蛍光イメージング、生物発光・蛍光の2次元イメージング、拡散蛍光トモグラフィ(FDOT)、拡散蛍光トモグラフィの装置と計測、拡散蛍光トモグラフィの実例、

第8章 光音響イメージング
光音響イメージング法、光音響イメージングの装置と測定、光音響イメージングの測定例

第9章 光コヒーレンストモグラフィ(OCT)
OCTの原理と方法、OCTの装置、OCTの臨床応用

前半の基礎編では生体中の散乱と吸収を中心とした光伝搬の物理と数理モデルや計測法の基礎について議論し、後半のイメージング編では技術の実装から臨床への具体的な応用例など実際面を詳細に解説している。本書の読者としては評者(武田)のような工学(光工学)を専門とする読者と医学や生物学を専門とする読者が想定されるが、いずれの読者も専門外の部分をなんとか読みこなせるような工夫がなされている。例えば、光輸送方程式や光拡散方程式や逆問題のように込み入った数式を伴うところは各節の終わりに「付録」として式の導出法が記されている。そして、医学の専門用語の略称についてはその都度説明がなされている。より深く学びたい読者のために各節ごとによく整備された参考文献がある。また本の末尾に数式の記号定義表、英文・記号索引、和文索引が充実しているので、本書は教科書的な通読書としての役割と、必要な知識をピンポイントで学ぶための辞典やハンドブックとしての役割を果たすことができる。

以上を要するに、本書は生体ひかりイメージングの新分野を(評者の知る限り)初めて体系化した画期的な和書であり、大学・研究機関・企業の図書館や当該分野の研究室に備えるべき秀逸の書である。