第39回　光学シンポジウム
講演プログラム

従来の光学顕微鏡の空間分解能は光の波動性により制限されてきた。しかし、近年、観察対象と光との相互作用を巧みに活用することにより、その制限を取り払うことに成功した超解像顕微鏡が多く登場した。本講演では、これらの超解像顕微鏡の原理を紹介し、さらに同技術の現在の開発研究、および応用の状況について概説する。

CMOSイメージセンサはCCDと異なり，画素内，カラム，周辺に様々な回路を集積し，センサに機能性を与えることができる．本発表では，蛍光寿命計測，蛍光相関分光法を適用した多点共焦点顕微鏡のためのCMOSイメージセンサの原理・構成と，今までに試作したセンサチップを利用した顕微鏡プロトタイプによる実験結果を示す．

細胞への外力は細胞骨格を通してミトコンドリアの挙動に影響することが報告されている．しかし，ミトコンドリアへの外力とその生理応答の関係は全く明らかにされていない．本研究では，ミトコンドリアの力学特性と生理応答を同時に計測するために，ベント光ファイバを備えた共焦点レーザー顕微鏡を開発した．その原理及び計測結果について報告する．

液晶偏光GRINレンズを用いたフレネルインコヒーレント自己相関ホログラフィ顕微鏡とその蛍光観察について報告する。対物レンズを通して蛍光励起された試料は再び対物レンズを通り更に液晶偏光レンズによりP及びS偏光でその虚像位置がずれる。そして偏光干渉により撮像素子でホログラムが記録される。

我々は，回折限界以下のナノ構造の推定を，既知のナノ構造の複素振幅像を学習したデータベースとのパターンマッチングにより実現し，複素振幅型ディジタル超解像顕微鏡法( DiSRIM:digital super-resolution interference microscopy )と呼び，提案している．本稿では，単一ナノ構造の形状や位置の推定について，FDTD法によるシミュレーションを用いて検証する．

We aim at pursuing the true nature of something flexible about cells with a breadth of vision. We attempt to grasp the meaning of a cell which automatically controls the ratio of output (reaction) to input (stimulation).

医薬品や化粧品の開発において、肌内部を非破壊で可視化することは重要である。皮膚は角質、表皮、真皮で構成され、表皮中のメラニン、真皮中のヘモグロビンは分光学的な特徴を有する。そこで、稼動部を持たず白色光源を分光整形して使用する方式のスペクトルドメイン（SD）型のOCTの開発を行った。まず赤色の光で深さ分解能4μmで実際のヒト肌の断層画像を観察できることを確認した。当日は他の色の結果についても示す。

ファンデーションと皮膚表層の深さ方向の光の伝搬に起因する光学特性を定量的に評価する方法として，我々が開発したRGB3色のLED光源を使用した新しいOCTを導入する．本研究では，ヒト皮膚表面の凹凸構造を転写した皮膚レプリカおよび皮膚レプリカにファンデーションを施した化粧肌のトモグラフィック分光計測を行い，化粧剤と皮膚の層構造における光伝搬と拡散反射光との関係，表面形状，ならびに剤塗布量の定量計測の成果を報告する．

本研究では，ディジタルカラーカメラで連続的に計測した皮膚のRGB画像の色彩情報を解析することで，皮膚微小循環の血行動態計測を行い，皮膚の血管運動と容積脈波を同時に評価する非接触イメージング法について検討を行った．運動負荷実験および寒冷刺激実験から得られた，本方法の自律神経調整機能評価への応用可能性について報告する．

近年，脳組織の光学特性値に基づき脳血行動態や組織・細胞形態を評価する試みがなされており，脳機能障害メカニズムの解明や脳組織のバイアビリティ診断への応用が期待されている．我々は，拡散反射分光法に基づくスペクトル解析を分光反射率画像に適用することで，露出脳表層の光散乱特性と吸収特性の時・空間的変化をイメージングする方法について，in vivo ラット露出脳を対象に実験的な検討を行ったので報告する．

シクロオレフィンポリマーは、シクロオレフィン類をモノマーとして合成されるポリマーであり、分子構造中に脂環構造を有するポリマーである。シクロオレフィンポリマーは非晶質であり、かつ極性基や不飽和結合を含有しないポリマー骨格を有することから、透明性に優れるとともに、吸水性・透湿性が低く、耐熱性に優れるといった従来のエンジニアリングプラスチックに無い領域の基本的特性を有するポリマーである。本講演では、シクロオレフィンポリマーの分子設計及び用途展開について紹介する。

銀を堆積したアモルファスカルコゲナイ膜GeS2は、光学吸収端近傍の光を照射することで銀がGeS2膜中に異常拡散し、大幅に屈折率が増加することを得ている。我々は、この効果の光学デバイスへの応用を考え、レーザー光を用いた微細なドープパターンを試作し、そのデバイスへの応用の可能性を探る。光学素子として、レーザー顕微鏡を用いた微小回折格子、光導波路等を試作及び評価し、各種フォトニック素子への応用の可能性を検討する。

スピン波とはスピン歳差運動が波のように伝播する現象である。われわれはポンプ・プローブ法を用い、透過光のファラデー回転角を通して、光励起されたスピン波により発生した磁化の空間分布をカメラを用いた2次元イメージングにて測定した。またこの方法を用い、従来用いられてきたプローブ光の空間スキャンによる測定法では測定時間の問題から困難であったスピン波2次元空間分布の時間分解測定を行った。

材料を徐々に付着することによって３次元形状データを実体化する付加製造（Additive Manufacturing）技術は，1989年に商業化されたあまり新しくはない技術である．これまで，試作に携わる製造事業者や一部のマニアにしか認知されていなかったが，2012年半ばぐらいから3Dプリンターという言葉がメディアに登場しはじめ，衆人の知るところとなってしまった．本講演では，この技術を加工の一つのカテゴリーとしてとらえ，その実態と将来性について解説する．

従来のイメージセンサはカラーフィルタにより分光を行うため、入射光の多くが吸収により失われていた。この問題を光の波の性質（導波、及び回折）を使った新しいマイクロ分光素子により解決した。この素子は高屈折率透明体からなる波長サイズの板状構造で、近接場の領域で光を損失なく原色と補色に分離できる。これをイメージセンサに適用し、解像度を維持したまま約２倍の高感度なカラー撮像に成功した。

金やアルミなどのナノ周期グレーティング構造がもつ巨大複屈折を利用した光学位相子について報告する。この構造ではグレーティングに垂直な方向と平行な方向の偏光で逆方向の位相変化を生じるため、複屈折が大きく、可視光用には金を、近紫外光にはアルミを用いることでサブ波長スケールの厚みで２分の１波長板を構成することができる。またこれを熱バイモルフ化することで製作した可変メタマテリアルの試作についても述べる。

本研究では、シリコンへのマイクロマシーニングとNiW合金の電気めっき・シリコンのロストモールディング技術を利用した耐熱性NiW合金の自立微細構造膜を製作する方法を提案する。めっき膜の作製プロセスと構造の光学特性について評価した。製作した合金膜は24.6at%のタングステンを含有しており、文献値から期待される融点は1675℃であった。またGeフォトダイオードを用いて熱光発電の模擬実験を行い、放射変換効率を測定した

我々は，白色有機EL素子から光を取り出すためにランダム性を有する回折構造を考案した．ランダム回折構造の構造パラメータを変えることで，回折よる拡散光の広がり角と回折効率をそれぞれ独立に制御できることを確認した．さらに，この構造を白色有機EL素子のガラス基板の表面に配置し，光の拡散角度と回折効率に対する光取り出し効率と視野角に対する色差の測定を行うことで，光取り出し性能の改善効果を系統的に調べた。

コンピュテーショナルフォトグラフィは、従来のカメラの撮像過程をくつがえした撮像手法と信号処理を組み合わせて従来のカメラの限界を打ち破る技術である。本技術分野の中核概念となるライトフィールドについて解説し、ライトフィールドをはじめとするシーンの付加情報を取得するための特化した撮像系を持つコンピュテーショナルカメラの事例を、付随する信号処理を含め紹介する。

並列位相シフトディジタルホログラフィは，記録した1枚のホログラムから観察物体の複素振幅情報のみを取得可能であるため，動的現象の高精度3次元動画像計測を可能にする．ホログラムの記録に超短光パルスを用いれば，超高速現象の3次元計測も可能である．本発表では，並列位相シフトディジタルホログラフィによる超高速現象のその場観察を目指して取り組んだ，像再生計算処理の高速化について紹介する．

ディジタルホログラフィは，干渉縞画像を記録することにより結像光学系がなくとも3次元画像情報を取得でき，計算機で3次元像を再生する技術である。しかしながら，干渉縞画像記録時に細かい縞を形成する成分が撮像素子の各画素で減衰し，像再生時に画質劣化として現れる，不可避の問題がある。本講演では，当該問題を解決するための処理方法を提案し，計算機シミュレーションと実験により効果を確認したので報告する。

配向膜の光学異方性が周期的に変調され、かつ厚膜方向に捻れた配向を導入した回折格子液晶セルは、回折時における偏光変換特性などによって光伝搬を高度制御できる。本研究では、再配向方向の露光エネルギー依存性を有する光架橋性高分子液晶を光配向膜として用い、偏光紫外を空セルへ一度露光するだけの簡便な手法で種々の回折格子液晶セルを形成した。本講演では、これらの素子の形成プロセスならびに回折特性について報告する。

光学素子加工面の中間周波数形状は光学系の性能に影響することが知られているが，中間周波数形状の高精度表現に適した形状表現手法がないためにシミュレーションによる性能評価が困難な領域となっている．そこで本研究では長田パッチを用いて形状計測点群から高精度表面形状モデルを構築し，さらに高精度かつ高速な光線追跡計算を開発することによって，中間周波数形状を考慮した光線追跡シミュレーションを実現した．

日本のすばる望遠鏡は、他の巨大望遠鏡が持たない広視野な主焦点カメラを持つことにより優れた観測成果をあげてきた。現代天文学の重要課題であるダークエネルギー等の研究には高いサーベイ観測能力が必要なため、我々は主焦点カメラの視野角を更に３倍に拡大する超広視野カメラ「Hyper Suprime-Cam」用の補正光学系を開発した。この補正光学系の概要と、開発のために投入された高度な光学技術・精密技術について紹介する。

軸対称波面収差は瞳半径の偶数冪乗項の級数として表される。これをゼルニケサークル多項式で展開して定数項も付け加えておく。波面収差を最適化する場合の自由度Nは光学系の自由度に定数項の自由度を加えたものである。最適化した後に残るのは2N+2次以上のゼルニケサークル多項式の和になる。この理論解を N=2,3,4の場合について放物面鏡を検査するヌルレンズの 数値解と比べたものを示す。

我々はレンズの偏心を定量的に調整する干渉計を開発した。的確なアルゴリズムの利用により振動に強く、位相シフターを必要としない構成であり、安価で安定したシステムを構成できる。ほぼリアルタイムに偏心量、偏心方向を計算し表示する。そのため、結果を見ながらの偏心調整が可能となる。

The focus varies according to not only the distance between the projecting lens and the wafer, but also aberration in the lens and misalignment of the illumination optics. The aberration and the illumination errors, in particular, cause the crucial problems in the manufacture of high-end LSIs. The focus we have to control should be the only distance between the projecting lens and the wafer. We developed a method for the purpose with an accuracy of sub-nanometers.

車載カメラの用途は大きく分けて二つある．一つはカメラ映像を認識し運転支援に役立てる使い方，もう一つは映像を表示し運転手の視覚支援としての活用である．ここでは，これら二つの用途における車載カメラの内部で行われている認識技術や映像処理技術について紹介する．また，運転支援にカメラを活用するための光学技術に対する要求，期待についても触れる．