第43回　光学シンポジウム
講演プログラム

予防安全（ADAS）や自動運転（AD）の実用化に向けてカメラやLidarなどの光学技術の開発と採用が進んでいる。本講演では、ADASやADの市場展望とカメラ、Lidarなどのセンシング技術の動向及び、これらの技術のキーとなる光学技術の動向について、ご説明させていたきます。

映像情報取得に好適なカメラとして「2in1カメラ」を考案・開発した。2in1カメラは、レンズ交換をするだけで、さまざまな2種映像の同時撮像が可能である。今回、狭帯域2波長の2in1レンズを試作して、2波長画像の反射率比から水中の植物プランクトン濃度（クロロフィルa）分布を推定することを試みたので紹介する。2波長画像間には画素ずれ・歪み・時間ずれがないため、簡単に反射率比画像を得ることができる。

人の視覚はシンプルな構造なのになぜ歪んで見えないのでしょう？実は脳が補正しているとも言われています。この脳が行なっている事を信号処理で出来たら、光学の世界は変わるのではないでしょうか？
　本講演では、昨年の光学シンポジウムで発表した『光学学習を用いた無収差復元信号処理のアクションカメラへの応用』を、マルチＧＰＵによるリアルタイム復元処理を確認したので報告します。

暗視撮影を必要とする分野では，赤外線暗視カメラが使用されてきたが，従来技術ではモノクロの映像しか撮影出来なかった．一方，赤外線撮影において，肉眼に近いカラー映像が撮影出来れば，これまでとは質的に異なる情報が得られ，前述の分野などで新しい展開が期待される．本講演では，これまでに開発してきた赤外線のみでカラー映像の撮影を実現する赤外線カラー暗視撮影技術の研究開発について紹介する．

我々は、薄型・軽量・低コストな集光型太陽電池(Concentrator Photovoltaics)として、PIC(Plastic lens Integrated III-V compound semiconductor Cell module)の開発を進めている。本発表では、PICモジュールの薄型化に適した集光用レンズアレイを試作し、太陽電池特性の評価を行ったので、その結果を報告する。

奇数次非球面は今や光学設計において一般的なものとなり、我々はその数学的な意義、収差論的な有効性について解明してきた。今回は、その形状表現の自由度を設計以外に応用した結果を報告する。取り上げるテーマはレンズのへそ(局所的な面くせ)である。従来、へそは偶数次で表現することが困難であり、結像性能の解析が困難であった。本発表では奇数次非球面を用いることにより、定量的な表現が可能となることを示す。

光学系と収差の関係をよりよく理解するには，

1. 光学系を構成する面の形状や屈折率
2. 光学系が置かれている前後の近軸関係

を分離して収差係数を管理することが有効である．
従来，この分離を実現する手法として，「特性行列と固有係数」が提案されている．
しかし，直接的に１．と２．の分離を実現する手法ではなかった．
本講演では，3次の光線屈折を表す収差係数を新たに定義し，１．２．を分離した収差係数計算式を提案する．

映画『スターウォーズ』や『アイアンマン』において，空中に浮かぶ映像や空中映像を手で操作する様子が描かれているように，情報を3次元空間内で直感的に操作する技術が期待されている．このような未来の技術のプロトタイプについて実現例を紹介する．可視光だけでなく赤外線による輻射熱の収束が可能な反射型光学素子（CMA）を用いた空中ヒーター技術，再帰反射による空中結像（AIRR）とその複合システム，さらに今後の展望について述べる．

ライトフィールド光学は3次元空間の光の状態を2次元平面上に記録再現する手段である。言い換えると3次元像は符号化されて2次元平面に記録され、符号化されたデータは同一の光学系で復号される。出力については表示面には符号化されたデータが提示され、これが空間に復号されるのであるから表示面と像の間は光学的共役関係に拘束されていない。立体表示だけではなく、このことにより新たな光学的な応用が考えられる。

ヘッドマウントディスプレイ等の小型な映像表示装置向けに、スキャニングファイバーデバイスとその制御方式を研究開発している。
本発表では従来の制御方式では困難だった、高解像度化、光利用効率改善を実現し、表示映像の品質を図る交差スキャン制御方式を提案する。

近年プロジェクションマッピングが注目を集めており，料理の演出への取り組みも行われ始めている．しかし，料理は位置・形状を正確に制御することが難しく，幾何学的な整合性を有する形でのプロジェクションマッピングは難しかった．本講演ではこの問題の解決を助けるものとして開発された食べられる再帰性反射材の原理とその料理演出への応用例について，研究背景も含めて紹介する．

複屈折の定量的評価は光機能性部材、および、素子において極めて重要なアスペクトであるが、それ以外にも、例えば、樹脂フィルムや射出成形容器の品質管理、あるいは、部材内部の組成や応力分布の可視化などの工業的なニーズに対しても極めて強力なツールとなりうる。そこで、我々は、偏光分離回折素子を用いた新たな手法を考案し、高速・高解像、かつ、ワンショットの撮影（試料の不要）で複屈折の2次元分布を定量評価できるイメージング技術を提案している。

8.2mすばる望遠鏡の近赤外線観測装置：MOIRCSやTMT (Thirty Meter Telescope)等の次世代観測装置用として、ハイブリッド・グリズム、Reflector facet transmission (RFT) grating、Volume binary grating等の開発を行っている。これらの新しい回折格子について、RCWAによる回折効率計算や試作の状況を報告する。

キヤノンでは、赤外分光の高性能化におけるゲームチェンジャーとなる切削式イマージョン回折素子の実用化を進めている。遠赤をカバーするテルル化カドミウム亜鉛は素子形状の製作までに留まっていたが、極低温環境耐性を有する反射および反射防止膜を有する実用素子化に成功した。材料屈折率は約2.6と高くはないが、4~20μｍの広帯域で実用性を持つ唯一の材料で、とりわけ13μｍ以遠での適用に期待が高まっている。

液晶偏光回折格子を用いた新たな偏光イメージング計測手法及びその光学システムを提案する。
提案するシステムは、円偏光分離機能を有する液晶偏光回折格子及び２枚の液晶リターダーがイメージング光学系に導入されたシンプルな構成から成る。
本原理では２枚の液晶リターダーの外部複屈折制御により、被写体の全ストークスパラメータの空間分布の復元に必要な情報を３枚の撮像画像から取得することができる。

シングルピクセルカメラやゴーストイメージングといった、イメージセンサーを必要とせず、単一の光検出器による計測と信号処理により画像計測を行う方法が注目されている。それぞれの手法について、その計測及び信号処理に関係する原理を概説する。また、単一画素計測によってもたらさせる利点を示す。これまでに報告されている研究事例と課題を紹介する。また、講演者が取り組んでいる計測の高速化に対する取り組みを紹介する。

物体の3次元動画像計測技術であるディジタルホログラフィは、一般的に反射物体の片面にしか物体照明光を照射しない。そのため、物体の片面の情報しか記録できず、動く物体の表裏の3次元記録ができない。本研究では、1台のカメラを用いたディジタルホログラフィによる物体の表裏のシングルショット記録方法とその光学的実現方法も提案する。実証実験を行い、提案光学系による物体の表裏のシングルショット記録に成功した。

眼の中の網膜は、単に視覚情報を感知し、高次脳中枢に視覚情報を送っているだけと考えられがちであるが、実際には、超並列視覚情報処理を行っている精密なプロセッサーである。色の処理や明るさの検出だけでなく、境界の検出・動きの検出などの視覚情報処理、体内時計の調節などを並列に行っている。この講演では、どのような視覚情報処理が網膜でなされ、また、なされていないのかについて、具体例やその網膜神経回路基盤を含め、紹介する。

本研究では蛍光などの３次元計測に利用可能なオフアクシス型インコヒーレントデジタルホログラフィック顕微鏡の数値的評価と，シミューレーションにより再構成データの評価値を向上させる実験系のパラメータ設定を行った。本研究で取り上げたパラメータには，光学回折素子として働く空間光変調器のレンズ関数と格子周期，測定対象のサイズ，顕微鏡の倍率などが含まれる。

古典光学における遮断周波数2NA/λは、位相・吸収物体による回折(最低次の”光と物質の相互作用”)に対してのみ適用されるのであって、蛍光(回折より高次の相互作用)にすら適用できない。物体に先験情報がない場合、far-field光学顕微鏡の解像限界(遮断周波数の上限値)は相互作用が決定する。様々な相互作用を用いた顕微鏡の解像限界を統一的に扱える光学理論、特にダイアグラム法について報告する。

RM-DIC顕微鏡にシァー方向切換えユニットを付加して、方向性の無い高解像な位相分布検出を可能にした。この顕微鏡を用いて、多能性を変化させた細胞を観察した結果、多能性細胞内の細胞小器官の位相量変化と多能性の維持に相関があることを発見した。更に、観察した細胞の位相分布に閾値を設定して、閾値以上の領域を抽出し、計測領域に対する面積比率を求めることで多能性細胞を無染色で評価する手法を開発した。

血液が緑色光をよく吸収するという性質を利用すると，スマートフォンなどに内蔵されているごく普通のビデオカメラで撮影した顔や掌の映像から脈波信号を抽出でき，心拍数はもちろん血行状態や血圧変動のような生体情報を遠隔・非接触的に得ることができる．本講演では，この技術を使った「魔法の鏡」プロジェクトを紹介するとともに，風呂やトイレでの血圧サージ検出や自動車運転者の体調管理などの幅広い応用について議論する．果たして，「死人の脈を診る」とはどういうことか？