第44回　光学シンポジウム
講演プログラム

網膜投影型レーザアイウェアはメガネフレーム内側の超小型レーザプロジェクタから瞳孔を通して網膜に画像投影するメガネ型の情報機器である。視力に依存しない鮮明画像が得られるフリーフォーカス、眼鏡フレーム内側に小型光学系を仕込んだユニバーサルデザイン、目のピント位置にかからわらず視野の一部に重なって画面が浮かぶ自然なAR、というこれまでの液晶型アイウェアに無い優れた特徴がある。当社は、これを医療機器として位置づけ、ロービジョンエイドとして弱視者を補助し、さらに視機能検査機器を開発して高度診断・遠隔医療の道を開き、最終的に医療・福祉機関、メガネ店等と連携した社会インフラ構築を目指している。本講演では、医療機器臨床試験、新型視機能検査機器の開発、世界初の民生機器販売等の最近の進展と、本技術の将来展望を紹介する。

蛍光抑制と波面制御光学系による超解像顕微鏡法では励起光と蛍光抑制光の２波長の位相を制御する機能性位相板を高精度に作製することが重要である。本研究では、物体面における縦方向分解能特性に優れる螺旋型位相板をフォトプロセスおよびエッチングプロセス技術を用いて高精度に作製した。さらにこの位相板を超解像顕微鏡に設置することで蛍光抑制光のドーナツ状ダークホールを生成し、その評価を行った。

蛍光抑制を用いた３次元超解像顕微鏡法により抗体染色した微小管を観察した。本顕微鏡が提供できる高い縦分解能により、複雑な立体構造をもつ微小管像を良い画質で３次元観察することができた。３次元超解像顕微鏡装置は２波長対応の輪帯型位相板を市販のレーザー顕微鏡に挿入するだけでセットアップできるので、３次元超解像顕微鏡法は生命科学分野における有力な計測法として期待できる。

網膜を構成する各ニューロンを適当な論理ゲート素子に置き換えたとき、そこから出現する機能について調査した。その結果、明るさを検知する桿体細胞からの信号はデッサン画を作成し、色を検知する錐体細胞からの信号は水彩のような画像を作成した。これらは、従来の画像認識技術とはまったく異なる方法で、気づきと認識を実現していた可能性が高い。さらに、眼球のサッケード運動や追従運動が自動的に発生する仕組みも出現した。

再生医療や創薬支援用に、iPS細胞から分化した細胞から目的細胞のみを分離する必要性が高まっている。本技術は、金ナノ粒子包埋コラーゲンゲルを細胞培養基材として用い、波長532nmのレーザー光を目的細胞直下の培養基材に照射し細胞との接着を弱め、さらに外力を加えることで細胞を生きたまま剥離/回収する技術である。本講演ではiPS細胞由来心筋細胞の剥離/回収および微少流路を利用した剥離/回収の効率化について報告する。

光音響イメージングは、光音響分光法(Photoacoustic Spectroscopy; PAS)の原理に基づく現象を利用する。光吸収に伴って発生する超音波を検出してイメージングする技術として医学生物応用が盛んに研究されている。散乱の影響が少ない超音波検出により深部の可視化に利点のある光音響イメージングで生命現象を捉えたら、診たい・観たいにどのように迫ることが出来るか。光音響イメージング研究の最新情報を技術を中心に講演する。

構造化照明顕微鏡法（SIM）は、従来の光学顕微鏡の限界とされていた回折限界のおよそ２倍の分解能を有する超解像蛍光顕微鏡法として知られている。SIMの結像式を導出し、それが共焦点ピンホール(PH)径が無限小の共焦点蛍光顕微鏡法（CFM）の結像式と基本的に同一であることが示された。CFMのPH径を従来の半分以下に絞った撮像にフーリエフィルタを施すことにより、SIMと同等の超解像が得られることが判った。

繰り返し誘導遷移(REST, Repetitive stimulated transition)という物理現象を利用した超解像非線形蛍光顕微鏡を提案する。REST顕微鏡では、強度変調された2色のCWレーザー光が誘起する励起(誘導吸収)と誘導放出を複数回経て生じる非線形蛍光をロックイン検出することで画像を取得する。蛍光ビーズ・生物試料イメージング結果は、提案手法による分解能向上効果を明瞭に示した。

強度輸送方程式を用いて，蛍光物体の３次元イメージングを実現する方法を提案する。マイクロメートルサイズの蛍光ビーズから発した蛍光の空間コヒーレンスを利用して，強度輸送方程式により位相情報を抽出する。光波逆伝搬計算によりフォーカスした蛍光強度分布が再現できることを実験データで示す。

昨今、空間内にデジタルコンテンツを出力する例が増えており、インタラクティブ性のあるサインによって、人に対して誘導や注意喚起を伝える事例が国内外で多数存在する。既存事例や既往研究から、アニメーション化したサインや、状況に併せて情報を変化するサインは、よりサインの効果が高く、利便性や安全性の向上効果が期待できると分かっている。本稿では、こういったサインを“ダイナミックサイン”とよび、ダイナミックサインによってより快適な施設や交通環境の形成を目指し、時間的・空間的に変化するサインのデザイン要件を述べる。

光産業の更なる発展の為には光学素子の光制御機能の高度化が鍵となる。我々は中でも偏光を自在に制御する為の偏光エレクトロニクス(PE)素子の開発に注力して研究を進めている。我々が提案するPE素子は主に、光学異方性を空間的に分布させた構造を有し、偏光変換・光分岐・位相制御などの機能を複合的に発現する。本発表では、光架橋性高分子液晶の光配向により作製された種々のPE素子とその偏光制御機能について報告する。
講演関連情報のHPリンク：https://whs.nagaokaut.ac.jp/optik/

宇宙望遠鏡用主鏡の軽量化のために， エポキシ樹脂を光学面としたCFRP鏡の開発が進められている．CFRP鏡の高精度化には，エポキシ樹脂面が高精度に研磨できれば良い．そこで本研究は，エポキシ樹脂の研磨特性を明らかにすることを目的に行った．オスカー式研磨機を用いてエポキシ樹脂やアクリル樹脂の研磨実験を行い，それぞれの研磨速度を調べた．また，両樹脂の硬さ試験を行い，研磨速度との相関を調べた．

キヤノンが昨年12月に発売した「RF 28-70mm F2.0 L USM」はフルサイズミラーレスカメラ用の大口径標準ズームである。本レンズは大口径マウントとショートバックフォーカスを活用し、ミラーレスに最適に設計された光学系を新たに採用することで、ズーム全域で開放F値2.0を実現した。本講演では今回採用した光学系の特徴と収差補正上の工夫について報告する。

近年4K、8Kとカメラの高解像度が進む中で、3板式カメラの製造が困難になってきていることから、単板式で高画質なデモザイク処理に関するニーズが高まって来ている。また、収差などの影響によりデモザイク処理での劣化も目立つようになってきている。本講演では、レンズの収差やその他の特性がデモザイク処理にどのように影響を与えるか示すとともに、機械学習を用いたその対策について報告します。
講演関連情報のHPリンク
http://realop.co.jp/technology.html#phase_shift_development

モノづくりの現場では，検査工程は欠くことができない．特に外観検査については，検査対象やキズ・欠陥の種類は多岐に渡り，おびただしい数の個別課題が存在する．技術者・研究者は，一品一様開発での各個撃破を繰り返し，外観・目視検査の自動化は目覚ましい発展を遂げた．一方，変種変量生産への柔軟な対応，熟練検査員と同等レベルの検出能力の獲得等，課題は多い．それに対して，AI技術の外観・目視検査自動化への活用が期待されている．本講演では，産学共同研究事例の紹介し，AI・画像処理技術で何ができるか，どう使うべきかについて解説する．

電子機器や光学機器のさらなる高性能化・低コスト化を実現するために、ガラス材料の微細加工を高速かつ精密に施す技術が求められている．微細加工が可能な技術としてフェムト秒レーザ加工が注目されているが，この手法には，加工能率が著しく低いという課題と，クラックが形成されるために精密加工が困難であるという課題が存在する．本講演では，これらの課題の生じる要因を高速現象観察と数値計算に基づき解説し，課題を克服した超高速微細精密加工法を紹介する．

モスアイ形状などのナノ・マイクロ構造は，その光学・機械的特性から非常に注目されている．我々は，エバネッセント光を用いた干渉リソグラフィーと干渉縞のうなりに着目したナノ・マイクロ構造の一括造形法を提案している．本手法では，数百nmのナノ構造と干渉縞のうなりによるマイクロ構造の一括造形を目指した．本発表では，提案した手法による140nmのナノ構造と12μm周期のマイクロ構造の一括造形を実証した．

本研究は、ホログラム作製の際の使用する電子線レジストgL1000-5の多重露光特性について調査することを目的とする。先行研究において、同一の総ドーズ量に対し異なる加工の深さが得られ、その原因が露光回数にあると考えた。多数のサンプルを作製して不良サンプルの条件を決定し、それらを取り除いた測定データから露光回数と加工の深さの関係について調査した。

低反射率ファイバブラッググレーティングで構成したファブリ・ペロー干渉計（FBG-FPI）を用いることで、設置可能なセンサの数に対する制限が少ない多点センシングが実現できる。また、低反射率FBG-FPIを構成する際に通常の光ファイバの代わりに偏波保持（PM）ファイバを使用すれば、温度とひずみの多点同時測定が期待できる。今回は、低反射率PM-FBG-FPIによる温度とひずみの同時測定の実験結果について報告する。

高精度かつ高ダイナミックレンジな3次元像を高解像度かつ瞬時に取得する計測法を開発した。これは、光コムの高い周波数制御性によりヒルベルト変換を光学的に実現したことで、fsパルスの時間幅での2次元分光計測が実現し、画像素子と同等な高解像度3次元像の取得を可能とした。

分光エリプソメトリー法は，薄膜や物質表面性状を解析する手法として広く用いられている．我々は，光強度，位相，周波数（波長）が高度に制御された光コムを用いることで，機械操作を必要とせず，高波長分解能，広帯域，かつ高速な分光エリプソメトリー法を実現した．本講演では，光コムを用いた強度・位相分光法について紹介した後に，光コムの偏光計測への応用および分光エリプソメトリーへの応用における特質について議論する．

本研究では、空間光変調器(SLM)を用いて非点収差を持つラゲールガウス(LG)ビームを生成する。疑似振幅変調を採用し、非点収差がない場合について、動径方向のモード指数についても純粋なLGビームとする。非点収差を持つLGビームは位相特異点の反転現象を生じる。SLMを用いることで非点収差を制御し、同一の位置で反転前および反転後のビームを得る。

我々はサンプルの拡大用対物レンズを用いることなく対象物体の拡大再生像を得ることが可能な，超小型化平面導波路型デジタルホログラフィック顕微鏡，PLC-DHMを提案し，その有効性を確認してきている．これまでにPLC-DHMは空間分解能1.6μmを達成し、生体試料への応用可能性を示してきた．本講演ではPLC-DHMを超小型で多波長化させるための可視域アレイ導波路グレーティング（AWG）の基礎評価や適用例を報告する．
講演関連情報のHPリンク：http://thetis.f-lab.tech.uec.ac.jp

従来の干渉計はビームを物体光と参照光に分離させていたため、装置が複雑でサイズが大きい課題があった。本研究では、観察面に配置されたグレーティング素子の内部で自己干渉を発生させる新しいイメージング方式を提案する。我々は実際にグレーティング素子を試作し、その位相検出分解能を評価した。イメージセンサ上に素子を一体形成することにより、位相コントラスト像を取得するカメラの実現が期待できる。

光学系を製造する上で厄介なのがレンズ偏心誤差である. 所望の光学性能を達成するためには、製造過程でレンズ偏心を把握することが重要である.　レンズ偏心を計測する技術は既に確立されているが原理上克服が難しい問題がある.我々は問題解決に向けて従来と全く異なるアプローチでレンズ偏心計測を実施したのでその取り組みを報告する.

物質を反射、透過、散乱した光の偏光状態は物質の構造等の情報を含むため、様々な偏光イメージング手法が提案されている。我々も偏光回折格子（PG）を用いたストークスパラメータのS3が取得可能な手法を提案している。しかしながら、本手法では回折格子による波長分散の影響で測定可能な被測定光が狭い帯域幅であった。今回は、複数のPGとプリズムを用いて、白色光のS3のイメージングを可能にしたので報告する。
講演関連情報のHPリンク：https://whs.nagaokaut.ac.jp/optik/

TMT（次世代30m望遠鏡）や8.2mすばる望遠鏡用として、Reflector facet transmission (RFT) gratingやVolume binary (VB) grating、また、チリ・チャナントール山頂（標高5,640m）の6.5m TAO望遠鏡用のゲルマニウム・グリズム（直視回折格子）等の開発を行っている。これらの新しい透過型回折格子の試作状況を報告する。

落合陽一は，大学教員やJST CRESTの研究プロジェクトリーダーとして，デバイスを用いたタスク指向型開発による社会実装として，身体障害や認知機能の補完を目指すプロジェクトを行なっている．この講演では，そういったタスク指向型システムに纏わる網膜投影やウェアラブル光学機器の話題を中心に人間の能力拡張のための光学装置に関する研究についてお話しする．

細胞のような位相物体の顕微鏡像の計算手段として、結像論を用いた方法が知られている。しかし、標本内部の散乱を1回以下と近似しており、最近の研究で注目されている細胞塊のように散乱物質を多数含む標本は正しく計算できない。今回我々は、部分的コヒーレント照明下で、多重散乱位相物体の像シミュレーション手法を開発したので紹介する。本手法は、位相差観察を始めとする手法に適用でき、実画像と一致することを確認した。

生きたヒトで手軽に皮下組織を可視化できる、内部拡散光を利用した観察装置を開発した。観察装置の構造や原理を紹介するとともに、ヒトの腕や顔の真皮乳頭構造のin-situ観察の結果、および毛細血管の形態と血流を可視化した結果について報告する。

2018年のノーベル物理学賞の対象となった「光ピンセット」は光が物質に及ぼす力（光圧）を用いてマイクロ微粒子を捕捉する技術であり、特にバイオ分野の発展に大きく寄与した。最近では光圧を用いて量子ドットや高分子などのナノ物質を直接捕捉・操作し、新奇な物質秩序・機能、また高度な計測・センシングを実現しようとする挑戦が始まっている。本講演では光圧によるナノ物質操作についての最新の研究と期待される応用技術について議論する。