第46回　光学シンポジウム
講演プログラム

生体では「動き」が重要である。多種多様な細胞の動態は時空間的に精緻にコントロールされている。細胞の動きを見るためには、「生きた細胞」を、「生きた組織」「生きた個体」の中で観察する必要がある。本演者は深部組織の観察に適した多光子励起顕微鏡を駆使して、生きた細胞の生きたままの動きのある世界を捉えてきた。今回の講演では、生体イメージングで捉えることができた細胞動態ネットワークや見ることで発見できた新たな細胞など最新の知見を紹介する。

医療貢献を目的に，目の撮像機能と眼球の運動機能の関係を調査している．網膜を構成するニューロンをそのままゲート素子に置き換えたところ，動きを高感度に検知する機能が出現し，照明の変動に対する高いロバスト性を有していた．一方，眼球の2つの運動機能（サッケードと追従運動）は，視細胞に桿体細胞と錐体細胞のどちらを選択するかによって同一の回路からそれぞれ出現し，視線の動きは現実のヒトの目とそっくりであった．

非共軸回転非対称光学系にも適用できるOff-Axial光学系の収差解析理論については、以前提案していたが、色収差に対する解析理論は、発表できていなかった。今回色収差理論部分にもテンソル解析の手法を導入して、回転非対称な系での9種類の色収差に収差論の観点から解析を加えた。また複数の面がある回転非対称な系の色収差で発生する独特なクロスターム項の効果についても紹介する予定である。

近年、Optical coherence tomographyや様々な相互作用を用いた顕微鏡が開発され、それらに対する結像理論も個別に発展を遂げてきた。しかしながら、統一的な理論体系の欠如のため、各手法の結像特性を理解することはできるが、手法間の関連性の把握は不十分であった。本講演では回折や結像の基礎原理に立ち返り、すべてのイメージング手法の統一的理解を可能とする理論的枠組みを紹介する。

所謂レンズフレアと呼ばれる現象は，本来除去すべきものでありながら，その独特な魅力から映像作品には不可欠な要素として親しまれてきた．ゲーム等のリアルタイムCGにおいても長年にわたり実装され，その手法によって表現の特性も大きく異なっている．本講演では，リアルタイムCGにおけるレンズフレア表現技術について、その変遷や最新の手法、将来可能となる表現への展望について紹介する．

LiDAR（Light Detection And Ranging）は自動運転の支援技術として注目を集めているが、現状では測定対象物の振動検出と距離測定を高速に両立させるのは困難である。そこで本研究では、この問題を解決すべく、「光相関領域リフレクトメトリ（OCDR）」技術に基づく新たなLiDARを提案し、その基本動作を実証した。測定点へのランダムアクセス性を活用し、30 kHzで振動するミラーの振動周波数と位置を高速かつ正確に測定することに成功した。

近年、路面状況の把握や工業製品の品質検査等に偏光イメージングを応用する試みが報告されている。これら従来の偏光イメージングの応用例の多くは、主に自然光で照明される環境下で被写体の偏光状態を撮像している。しかし、自然光は物質内部の異方性等に対する感度が無く、被写体の偏光特性を正確に計測できない。そこで本発表では、偏光照射と偏光撮像の両機能を備える偏光プローブ型偏光イメージングシステムを提案する。

金属ナノ粒子中の自由電子の集団振動、局在プラズモン共鳴により、従来のレンズやミラー等の光学素子と異なり、光波長より小さいナノ空間で光波を制御できるようになる。本講演では、局在プラズモン制御によって顕れる新奇光機能を示すナノ光学素子を紹介すると共に、ナノ光学素子による光の運動量変化（光圧）の制御に立脚した新しい光駆動ナノモーターについて、今後の展望とともに議論する。

近年，産業機器は微細化が進み一方でその計測・加工の範囲は拡大している．これらの背景から高精度かつ環境にロバストな距離計測手法が求められている．この要求を満たす手法として，ECLDの共振器長計測を応用した距離計測手法について検討を進めている．本研究では二重周期回折格子を用いることでより高精度な共振器長計測を行うことを目的とする．本報では二重周期回折格子を用いた共振器長計測手法の提案と実験的検証を行った．

さまざまな光学的特徴を示す，直径数100nm?数μmに細径化されたテーパ光ファイバが注目されている. 設計機能を発揮するためには, ファイバ径の高精度なインプロセス測定が求められる. そこで本研究では, 定在波照明を用いた直径計測法を提案しており, 計測精度の保証のため行った, 計測システムの校正やインプロセス計測において重要となるロバスト性の評価について報告する.

物体に光を照射した際のBRDF(Bidirectional Reflectance Distribution Function；反射光角度分布）は、その表面状態（ミクロな構造や材質など）を反映することが知られている。本研究では平行照明光と同心円状の多波長フィルタとを用いることでBRDFをワンショットで取得できるイメージングシステムを提案する。本システムは熟練検査員の目視に頼っていた従来の製品検査の自動化に有効と考える。本講演では種々の表面状態とその際の撮像画像との関係について報告する。

ナノ粒子の粒子種（材質と凝集状態）と粒度分布を同時決定可能な粒度分布計測法として、動的および静的光散乱を組み合わせたマルチモーダルな方法を提案する。散乱光の時間平均強度と時間揺らぎの散乱角および波長依存から、多成分混合粒子分散液における粒子種ごとの粒度分布を定量できた。本法を濃厚粒子系の計測にも適用するため、広帯域化低コヒーレンス動的光散乱システムによる波長情報の抽出法を開発した。

サブ波長構造を含む素子の光学機能を探索的に設計するためには，精密な光電磁場解析を反復する必要があるが，一般には計算コスト増大の問題を伴う．その課題の解決に向けたアプローチとして，本研究では電磁場を構造パラメータのテイラー級数で表現し，境界要素法によって低次の項から逐次的に求める方法によって構造変化に対する性能変化の傾向を調べることを狙った．一例として二次元微小円筒レンズの設計について報告する．

光メタサーフェスは，波長より小さな微細表面構造から構成され，多様な光制御を実現できる．なかでも，誘電体からなる光メタサーフェスは，光損失が少なく，透過光の位相や偏光，波長分散を自在に操ることができるため，全く新しい空間光学素子として設計できる．したがって，撮像システムの抜本的な小型化や多機能化など，イメージングの形態・機能に大きな変革をもたらす可能性を秘めている．本講演では，誘電体メタサーフェスとそのイメージング応用について，我々の研究を中心に紹介する．

微小な半導体LEDを高密度に配列させたマイクロLEDディスプレイは次世代のVR/AR向け高輝度・高解像度ディスプレイの最有力候補である。しかし、従来のプラズマメサ加工型マイクロLEDはサイズ縮小に伴う発光効率低下や横方向放射に起因する光のクロストークなどの課題を抱えており、VR/ARに必要な解像度、輝度の実現が困難な状況である。当グループでは、従来方式のマイクロLEDの代わりに、微小円錐台におけるエバネッセント光の結合効果を基本原理とする指向性マイクロLEDの開発を進めている。本講演では、従来方式の課題を整理して説明するとともに、指向性マイクロLEDの動作原理や最新の開発状況などについて述べる。

我々は超軽量スマートグラスを実現するため、多段マイクロミラー構造導光板を開発した。本導光板は、マイクロミラー構造部と平坦部を有し、マイクロミラー構造部を離散配置している。この導光板を用いて十分な画質を確保するためには高度な成形技術が必要である。そこで、形状と画像の関係についてシミュレーションと解析を実施し、適切な公差を設定した。その結果、広画角で十分な画質である超軽量スマートグラスを実現した。

キヤノンが昨年7月に発売した「RF600mm F11 IS STM/RF800mm F11 IS STM」はフルサイズミラーレスカメラ用の超望遠単焦点レンズである。本レンズは回折光学素子を採用することで小型、軽量な超望遠レンズを実現した。本講演ではカメラシステムとしてこのレンズが実現した背景と今回採用した光学系の特徴、収差補正上の工夫について報告する。

強度輸送方程式やディジタルホログラフィーによる３次元蛍光イメージングにおける問題として再生像が奥行き方向に伸びることがある。本研究では、深層学習と類似度を指標として３次元蛍光イメージングの再構成像の改善を行った。蛍光ビーズと植物細胞の結果を示す。

Fe添加ニオブ酸リチウムは角度多重記録や書き換え可能などの優れた性質を有するため、ホログラフィックメモリの記録材料として注目されている。我々は、体積型ホログラムの角度多重記録特性に着目し、結晶回転による多色ホログラムフリップブックの作成の研究に取り組み、RGBレーザや白色LEDによる多色再生に取り組んできた。今回は、多色再生を可能にする光学系や、記録時間の短縮に貢献するホログラム記録の物体光、参照光の偏光状態の最適化について報告する。

ホログラフィーをアートの表現メディアとしてとらえ、その可能性について述べる。ホログラフィーは、従来の古典的なアートの表現メディアとは非常に異なるユニークな特長を内包している。アート表現にとっての魅力的特長は3次元画像の記録のみならず多岐にわたっている。ではその特長とはどのようなものか。筆者がこれまで実践してきた作品例を通して、異なる特長を活かした様々な方向の展開とその可能性を紹介する。これらの作品の展示空間はギャラリーや美術館にとどまらず、日常の建築空間から、自然の野外環境空間にまで広がっている。

単一画素光検出器でイメージングを実現するシングルピクセルイメージングは，光学系のユニークさだけでなく解析方法の多様性や応用範囲の広さ，従来のイメージング技術では獲得することのできない特徴をもつことから，近年，注目を集めている．特に，AI技術と結びつくことによって，高速化や高精度化が飛躍的に進歩するなど，さらなる深化を遂げている．本講演では，基本的な原理と特徴だけでなく，機械学習を導入するための考え方やその効果を実例を交えて紹介する．

散乱性媒質が人に感じさせる透明感を，Deep Learningによって学習・評価させることで，透明感と散乱特性・焦点距離との関係について分析した結果を報告する．

光学式半導体検査装置においては、結像性能として数10mλ以下の波面収差が必要とされるが、設置後では定量評価ができていない。我々は、NA0.9の検査装置に点回折干渉計を適用し、in-situの波面収差計測で精度0.002λを達成した。本講演では、低コストの光学部材で構成可能で、調整容易性も考慮した全体設計における工夫に加え、解析方法ついて述べる。

高NA(numerical aperture)球面レンズの面精度評価において、従来のフィゾー型干渉計ではメカニカルな位相変調がもたらす空間的不均一性がクリティカルな測定誤差となっていた。この課題を解決するため、我々は測定領域毎に異なる位相解析アルゴリズムを適用する合成開口法を提案した。今回は、その測定原理と解析方法及び検証結果の紹介を行い、実験データに基づく実測定環境下での効果や考察について述べる。

斜方蒸着やゾル・ゲル法等による低密度膜は光学性能の向上はあるが、他の成膜プロセスとの併用が必要である。そのため反射防止膜の最表層に用いる以外の実用例がほとんどない。我々が開発した複合成膜手法は異なる密度（屈折率）の膜を同一装置内で作製できる。つまり、基板と同一の膜材料のみで構成された光学薄膜(モノマテリアルコート：造語)を作製可能である。本報告では基板・膜をSiO2のみで構成した光学多層膜を報告する。

本研究では，光コンピューティングの一手法として，反復関数系に基づくリザーバーコンピューティングの特性を評価している．提案手法は，光学処理のパラメータ制御により結合行列を調整でき，対象信号に応じた柔軟な演算能力を特徴とする．今回，光学的アフィン変換ビデオフィードバック系システムを構築し，性質の異なるMackey Grass方程式とSanta Fe時系列信号予測において，高い予測精度が得られることを確認した．

通信に続き給電の無線化が期待されている．光無線給電は，他の電磁波を用いる無線給電より，小型軽量，長距離，電磁波ノイズがないなどの特徴をもつ．このため超小型IoT端末から，情報端末，家電，産業機器，また，ロボット，ドローン，EVなどのモビリティへの適用が期待される．一方で，ビーム光源と太陽電池の確立技術を基礎とするが，その研究開発はまだ非常に限られている．この光無線給電の最新動向，実現に向けた課題を講演する．